2014.11.28
途上国に住む子どもたちの多くが社会の様々な活動に参加する機会を奪われたり、遠ざけられたりしていますが、その中でも特に排除されやすいのが、障がいを持つ子どもたちです。
チャイルド・スポンサーシップを通して支援を受けているチャイルドの1人、ベトナムのフォン君は、生まれながらにして片目の視力が弱く、麻痺があるため手足が不自由です。治療して何とかほかの子どもと同じことができるようにという両親の思いもあり、フォン君は懸命にリハビリをしました。その結果、不自由ながらも歩けるようになるなど機能の一部は改善しましたが、依然、障がいは残ったままでした。
ほかの子どもたちと同じように地域の小学校に行きたいと思ったフォン君。2年遅れで入学したものの、生徒たちの障がいについての理解のなさから、グループに入れてもらえなかったり、からかいやいじめの対象となったりという出来事があり、学校をやめたいと思うようになりました。
その状況を知ったワールド・ビジョンと先生は、誕生日会、秋祭り、ゲーム大会などの課外活動に、フォン君を含む障がいを持つ子どもたちの参加を促しました。その結果、障がいのない子どもたちの中に、障がいに対する理解や共感の心が育ち、コミュニケーションの仕方が改善されました。フォン君とクラスメイトたちの関係も変わり、今では、フォン君は勉強熱心で、社交的、快活な小学生です。先生も友達も、フォン君を理解し、大切な仲間として受け入れています。
様々な理由で特定の人の参加を阻むことを「エクスクルージョン(排除)」と呼ぶのに対して、すべての人が意味ある参加ができるように制度や設備、差別や偏見などの壁をなくしていくことを「インクルージョン(包摂)」と呼びます。フォン君のストーリーは周囲の差別や偏見の壁が取り除かれたことで、インクルージョンが進んだ事例です。
自分が暮らす地域で、周囲の人と同じ時間、場所、体験を共有したいという思いは途上国、先進国、障がいのあるなしに関わらず、多くの人に共通しています。
しかし現実には「壁」が存在し、障がいを持つ子どもたちのうち90%は教育の機会から遠ざけられていると推計されます。教育以外にも宗教、政治を含む地域での様々な行事、家族や地域で決め事をする際の意思決定プロセスなど多々あります。
子どもの権利条約23条は、心身に障がいがある子どもも個性や誇りが守られ、充実した暮らしができるよう教育やトレーニング、保健サービスなどが受けられるようにする責任が国にあることをうたっています。
2014年1月に日本政府が批准した「国連・障がい者の権利条約」では、この考えがさらに深められ、障がいのある子どもも大人も、障がいを持たない人が利用する地域の教育施設で、できる限りともに学ぶ「インクルージョン教育」の制度の下に、良質な教育を受けられる機会が公平・公正に与えられなければならない、としています。
2013年11月、ワールド・ビジョンの支援によりインドの首都デリーに全国の子どもたちの代表19人が集まりました。19人は、視覚や聴覚、肢体などに障がいを持つ子どもたちやHIV/エイズ感染者、ストリート・チルドレンで、社会への参加を阻まれている子どもたちの代表です。子どもたちは、それぞれの経験を分かち合い、最後に、自分たちの思いを政府や政治家に向けたマニフェストとしてまとめました。
「私たちの声(Our Voice)」と題されたマニフェストでは、「18歳まで無償で質の高いインクルージョン教育の機会を保障してほしい」「すべての村に保健サービスをいきわたらせてほしい」「政府の保護を強化してほしい」「社会の差別をなくしてほしい」「就業の機会を増やし、社会保障を充実させてほしい」といった声が記されています。
このマニフェストは、国政選挙を前にした当時の政府や政党関係者に提出されました。
障がい者の権利条約が制定された根底には、「私たちのことを私たち抜きで決めないで!」(英語: Nothing about us without us !)と言う考えがあります。子どもたち、特に障がいを持つ子どもたちにも意見を表明し、さまざまな意思決定のプロセスに参加する権利があるのです。
WVは、障がいのあるなしに関わらず、子どもが地域で育ち参加する権利が保障されるよう、チャイルド・スポンサーシップによる支援を行っています。
災害や紛争などの緊急時においても、障がいを含む、より弱い立場にある人々への配慮をしつつ事業を進めています。
また、2010年からはJANNET(障害分野NGO連絡会)
冒頭のフォン君は、今、次のように語ります。「将来は、村のリーダーになってみんなを助ける仕事がしたい」。 きっと、すべての人に参加が保障される、住みよい地域づくりの推進役となってくれるでしょう。