(2017.06.05)
2011年の東日本大震災から6 年。原発事故が起きた福島には、東日本大震災に加えて、元々抱えていた過疎化や高齢化の問題が複雑に絡み合い、生きづらさを感じている方が多くいるのが現実です。
毎年発表される震災関連死/自殺の数字の内訳上は、大人の問題のようにも見えますが、「大人が生きづらい」ということは、「子どもも生きづらい」のだと思います。
2016 年4 月、ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ) は、福島で長年にわたり子ども・若者支援に取り組む(特非)ビーンズふくしまが実施してきた事業に協働する形で「福島子ども支援事業」を立ち上げ、避難先や生活が困窮している家庭で悩む子どもたちに、寄り添った支援を行っています。
今回は、事業のために福島に駐在して約1年が経つ私より、現場からのレポートをお届けします。
・仮設住宅や復興公営住宅での学習支援を通じた、安心できる居場所づくり
・避難している子どもと避難先の地域に住む子どもの交流
・「地域の支援体制」構築のための取り組み、耕作体験イベントや夏祭りなどで地域と連携等
・家庭訪問による相談支援
・家庭環境・生活環境の整備
・同年齢・年齢間の交流機会の提供(スポーツの日、キャンプ等のイベント)
・地域の関係機関とのネットワーク構築、関係機関とのケース会議の開催 等
■仮設住宅等の子どもの支援
・学習支援・イベントを行った回数:575回
(仮設住宅・復興公営住宅等8 カ所の総計)
イベント例:じゃがいも植え付け、科学工作体験、アクセサリー作り、体育館遊び、スパリゾートハワイアンズへ行こう、くつしたデザイナーになってみよう等
・参加した子どもの延べ人数:2,751人
(2016 年度年間実績)
■生活困窮家庭の子どもの支援
・直接サポートを行った回数:5,840回
本人 | 親族 | |
訪問 | 154回 | 99回 |
来所 | 8回 | 6回 |
同行 | 45回 | 32回 |
電話 | 212回 | 515回 |
メール | 2,912回 | 1,857回 |
・関係機関への連携: 427回
(2016 年度年間実績)
■仮設住宅等で生活する子どもの支援
避難指示区域や帰還困難区域から避難し、仮設住宅や復興公営住宅で生活している子どもたちの多くは、その町に臨時で建てられたサテライト校*(仮校舎)に通っています。しかし、小学校、中学校合わせても30人程度だったり、1 学年あたり2 ~ 3人、0人の学年もあるサテライト校もあり、そのほとんどはいずれ閉校することが決まっています。
サテライト校に通う子どもの多くは、もともとその地域で暮らしていた子どもたちと交流する機会が少ないため、新しい生活に馴染めず、ストレスを抱えています。そのことに加え、仮設住宅は薄いトタン板で建てられた狭い部屋のため、「自分の部屋」がなく、家庭でもストレスを抱えながら生活しているのが現状です。
そのような状況に置かれた子どもたちには、日常のストレスから自然と解放され、安心して過ごせる居場所が必要不可欠です。学習と遊びを主な活動にしながら、保護者会や地域交流会も実施し、子どもたち一人ひとりのニーズに丁寧に寄り添うことをこれからも大切にしていきます。
* サテライト校:避難区域に指定された場所にある学校が、本校舎から遠く離れた場所に設置され、授業を行う仮校舎
■生活困窮家庭の子どもの支援
様々な事情により困難を抱えている子どもたちを守り、子どもたちが本来持っている「生きる力」を引き出し、必要な社会的サポートや将来の希望へと繋げていく支援を行っています。
複雑な背景から、助けを求めるべき状況に置かれているという認識が持ちづらく、行政を含む社会的サポートにつながることができずに孤立する子どもに対し、定期的な訪問、メール、電話にて、子ども一人ひとりのニーズや想い、意思に寄り添い、何年もかけて信頼に基づいた関係づくりを行います。
その後、子どもが安心して安全に生きていく権利を地域が守っていけるよう、医療、福祉、教育機関、親の就労など、地域の関係機関へと支援を移行していきます。
時間をかけて、子どもの「生きる力」を引き出し、それを地域で支える仕組みを整えることを目指しています。
ペットの糞で沼地化したゴミ屋敷で暮らす子ども、精神疾患を抱え家庭教育力の乏しい母親、虐待を繰り返す母親の交際相手と暮らす子ども、心中企図を繰り返す母親と常に生命の危機を抱えながら暮らす子ども。
生まれながらに過酷な環境下で生きる子どもたちと、私たちは日々接しています。単に経済的貧困が解決されれば、家庭の抱える問題が解決されるわけではないような環境の中で、精一杯生きている子どもたちの思いに私たちは寄り添い、生きる力を引き出すための支援を繰り返し行っています。
子どもたちが夢や希望を失うほどの悲しい現実を幾度となく目にしました。そのような子どもたちと接する上で、私が目指していることの1 つは、「大人になるのも楽しそうだな」と思ってもらえる大人であり続けることです。そうしたら、子どもたちはきっと、将来に命を繋いでくれると思うからです。
「自分の意思で、生きる道を切り拓く力をつけてほしい」と願いながら、私たちは毎日現場へ向かいます。それが、子どもたちの生きる力、そして貧困の連鎖を止める力になると信じて。
避難指示区域外で避難生活を送ってきた人たちは、避難指示解除と同時に自主的避難者となり、公的支援が縮小されていきます。自主的避難者への支援策、および、避難指示解除区域に帰還した家族や子どもたちのコミュニティ再編も重要課題となります。