【シリア危機】子どもたちに未来を拓く力を~ヨルダン教育支援のこれまでとこれから

(2021.07.21)



7年間にわたる継続的な教育支援(JPF助成事業が2021年6月末で終了)

「今世紀最大の人道危機」と言われる2011年発生のシリア危機。祖国を逃れたシリアの人々がヨルダンを含む近隣国へ避難を始めてから、10年以上の月日が経ちました。

ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)は、ジャパン・プラットフォーム(JPF)からの助成金と皆さまにご協力いただいた募金により、2014年からヨルダン北部で教育支援事業を実施してきました。紛争の影響を受けたシリア難民・ヨルダン人の子どもたちへ補習授業の提供を通じたこの事業は、2021年6月末でJPFからの助成が終了となりました。約7年間にわたって子どもたちの学びを支えるために継続してきた事業の成果をご報告します。

補習授業の様子(2019年)

事業の成果

2011年のシリア危機直後から、大勢のシリア難民が隣国のヨルダンに避難してきました。ヨルダン政府はシリア難民の子どもたちがヨルダンの公立学校で学び続けることができるよう、北部の学校を中心にヨルダン人が午前に、シリア人が午後に通学する2部制を導入しました。その結果、子どもたちの学習時間の短縮や一教室当たりの人数の増加など、教育の質の低下が課題となりました。

シリアからヨルダンに逃れてきた子どもたちの中には、学校に通えない期間があった影響により、勉強についていかれない、理解につまづくといった影響が出ているケースもありました。

WVJの支援事業では、このような状況で学習の遅れや理解の難しさを抱えるヨルダン人・シリア人の子どもたちを対象に、基礎学力を定着させ、学校に通い続けられるようにするための補習授業を提供してきました。

約7年間の事業期間中、イルビド県、ザルカ県の5校における4038人の子どもたちに、補習授業と紛争や避難生活によるストレスを軽減するためのレクリエーション活動を届けることができました。

2020年からはコロナ禍の影響により、ヨルダンの学校は全て休校となりました。事業の補習授業も遠隔での支援となりましたが、教育が中断されることなく、コロナ禍であっても子どもたちが学び続けることができるよう、試行錯誤を重ねてきました。

遠隔の補習授業で配信したレクリエーション動画を見て、家の中で体を動かす子どもたち(2021年)

「緊急時の教育」専門家、上智大学小松教授との協働

2018年からは、より質の高い、効果的な事業の実施を目指し、紛争や災害など緊急時の教育の専門家である上智大学、小松太郎教授と協働してきました。

2019年には小松教授のご協力のもと、評価調査を実施し、客観的な事業成果を測定し、事業活動の改善に活用しました。また、最終年度となった2020-2021年には外部専門家として小松教授を迎え、コロナ禍でチャレンジの多い状況において、日々助言をいただきながら活動を進めることができました。

また、調査や事業活動のデータ分析を通して得られた知見や教訓を、日本国内外の学会において小松教授とWVJで共同発表を行うなど、教育や国際開発の関係者への共有・発信においても連携を重ねました。

2021年6月26日に開催された比較教育学会での小松教授・WVJの共同発表にて、質問に回答する松崎スタッフ

持続可能な事業効果のために~7年の事業実施経験から得た知見の共有

最終年度となる今期事業においては、7年にわたる教育支援事業の実施経験から得られた知見を、事業地ヨルダンの教育関係者および他の国や地域で緊急時の教育支援に取り組む支援機関や実務者と共有できるよう、補習授業を教える教員向けのハンドブックを作成しました。

2021年6月30日には、このハンドブックの完成を記念し、小松教授をモデレーターとしてLeaving No One Behind: Investing in Remedial Education in Emergency (訳:誰一人取り残さない:緊急時の補習教育) と題したオンライン・ウェビナーを開催しました。

ヨルダン教育省や緊急時の教育のグローバルネットワーク組織、Inter-agency Network for Education in Emergencies (INEE)をパネリストに招き、ヨルダンや日本、その他の国や地域で教育支援、難民支援に関わる支援関係者など100名以上の方々に参加いただきました。

ウェビナーでは、緊急時における補習授業の意義、そしてハンドブックを活用した今後の補習授業支援のための議論が繰り広げられました。

ハンドブックはこちらからご覧になれます:
英語版 ・アラビア語版

作成したハンドブック
オンライン・ウェビナーで補習授業による教育支援の意義について総括するモデレーターの小松教授

ヨルダン教育支援のこれから

COVID-19の影響により、避難生活を送るシリア難民を含め、ヨルダンに暮らす子どもたちの教育環境は危機的状況にあります。JPFの助成は終了となりますが、引き続き、皆様にご支援頂いた募金によって、子どもたちが学習の中断によって取り残されることのないよう、補習授業による教育支援を継続していきます。

また、今夏、未来ドラフト2021というアイディア・コンペティションを通じて、シリア難民やヨルダンの子どもたちと日本の若者をつなぐアイデアのエントリーを受付中です(応募締切:2021年8月15日)。シリアの復興やヨルダンの未来を担う子どもたちの教育機会を支え、より良い未来を創る一員として、ワールド・ビジョンは活動を続けていきます。

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