(2018.05.25)
イラク北部のモスルでは、2013年後半から始まった紛争により、学校施設が破壊され、学習スペースや教材・学用品も不足するなど、教育の環境と質が著しく悪化しました。武装勢力の支配下に置かれた2014年8月以降の約3年間は、モスルの学校では暴力的価値観が教えられ、多くの子どもたちが教育を受ける機会を奪われました。
武装勢力支配下の3年間に、イラク全体で少なくとも約100万人の子どもたちが教育を受けられない時期を経験し、避難した子どもの約70%は1年以上学校へ通えなかったと推計されています。
イラク政府がモスル奪還作戦を行った2016年10月以降は、空爆を含む激しい戦闘により、道路や建物などのインフラが壊滅的な被害を受けただけでなく、多くの民間人が死傷しました。特に奪還までに時間がかかったモスル西部の被害が甚大でした。モスルの子どもたちの多くが、市街地で流血した負傷者や遺体を目にしたり、スナイパーによる射殺や地雷の被害、家族が殺害される現場を目撃したり、爆破によって家を失ったりしており、深刻なストレスを受けています。
2017年7月に武装勢力から解放された後も、モスル周辺には武装勢力により敷き詰められた大量の地雷が残っており、破壊された建物の下には今も不発弾が埋まっているなど、人々は危険と隣り合わせの生活を余儀なくされています。
このような状況を踏まえ、本事業ではモスル西部の子どもたちが安全な環境で質の高い教育を受けられるよう支援し、コミュニティの中で子どもたちが心身ともに保護される環境を整えることを目指して、活動を行います。
本事業では、次の2つの活動を通して、さまざまな危険から子どもたちを守り、子どもたちが質の高い教育を受けて健やかに成長できる環境と体制を整えます。
①安全な学習環境の整備と教育の質の向上
子どもたちが安全な環境で学び、紛争の影響を受けたモスルにおいて生きていくために必要な知識を身につけられるよう、教育支援を行います。具体的には、小学校の修繕や教材・学用品の提供、教員の研修、地雷などの危険から身を守るための啓発教育、学習期間にブランクのある子どもたちへの補習授業の提供などの支援を行います。
②コミュニティにおける子どもの保護環境の整備
紛争により特に深刻なストレスを受けた子どもたちが、ストレスを発散し、困難に対処する力を身につけられるよう、クラフトやゲームなどのレクリエーション活動を行います。個別の支援が必要な子どもたちに対しては、ソーシャルワーカーが個別支援を行います。
多様な民族、言語、宗教を持つ住民が暮らすモスルにおいて、紛争中には異なる背景を持つグループ同士の摩擦が生まれ、コミュニティ内の社会的結束が弱まってしまいました。しかし、紛争の影響を受けた子どもたちを守っていくためには、コミュニティ全体の協力が必要です。このため、さまざまな背景を持つグループから選ばれたメンバーによる子ども保護委員会を設立し、問題を抱えている子どもの特定やフォローアップ、ソーシャルワーカーや関係機関への紹介などの活動を、コミュニティ全体で協力しながら継続的に行っていけるよう支援します。
荒廃したモスルの市街地で、子どもたちは懸命に生きています。
家族を失い、身体的にも精神的にも傷を負った多くの子どもたちが、戦闘が終わった現在でも、学校に行くこともできず、児童労働や武装勢力への関与など暴力や搾取の対象として、危険にさらされています。
モスルの子どもたちとその家族が紛争の影響や恐怖を乗り越え、平和な未来に向けて回復していくことができるよう、地域の人々と協力しながら、一人ひとりの子どもに寄り添った支援を進めていきたいと思います。
★岩間スタッフ登壇イベント情報★
■開催日時:2018年7月25日(水)18:30-20:00 (18:00開場)
■場所:毎日メディアカフェ
東京メトロ東西線 竹橋駅直結 パレスサイドビル1階
■定員:30名
■参加費:無料