(2023.05.31)
ワールド・ビジョン総裁/最高責任者のアンドリュー・モーリーは、ケニアのトゥルカナ郡を訪問し、ワールド・ビジョンが国連世界食糧計画(WFP)と協働で実施している「子どもの栄養不良予防と改善プログラム」を視察しました。
アンドリュー・モーリーは、飢餓に苦しむ人が多いアフリカにおいて肥満率が高くなっているパラドックス(皮肉)は、食料システムの崩壊を象徴している、と話します。以下、アンドリュー・モーリーのメッセージをご紹介します。
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アフリカは、飢餓の中枢としてのイメージが強い大陸です。実際、世界で最も飢餓が深刻な国10カ国のうち、8カ国がアフリカ大陸の国々です*1 。その大陸で、実は、肥満が大きな問題となっています。2019年の統計では、世界の肥満の子どもたちの約25%がアフリカで暮らしていました。しかし、意外にも、この矛盾した健康問題はアフリカ特有のものではなかったのです。
*1:Global Hunger Index(世界飢餓指数)2022(外部英語サイト)
「世界飢餓指数」は世界各国の飢餓状況を多元的に解析して求めた指数で、①総人口のうち十分な栄養ある食事を摂れない人の割合 ② 5歳未満児の栄養不良(消耗症(急性栄養不良)と発育阻害(慢性栄養不良))③5歳未満児の死亡率 などが考慮されています
飢餓と肥満は、貧富に関わらず、世界のほとんどの国に存在します。むしろ、この2つは地域内や家庭内でも共存しています。低栄養と過剰栄養は「栄養不良の二重の負担」を意味し、子どもの最大の死因の1つとなっています。
将来の食料安全保障を予測したデータによると、2030年には6.7億人が飢餓に直面していると推計されます*2。さらに、2035年には肥満状態の人は40億人以上に増加し世界の総人口の大半を占めるようになり、そしてそのリスクに最もさらされるのは、低所得国で暮らす子どもや若者と予測されています*3。また、肥満による世界経済への影響は、2035年までに年間4兆ドル(この記事公開当時のレートでおよそ559兆円)を超えると見込まれています。
*2:UN News 6 July 2022:「世界は飢餓と栄養失調の撲滅において後退」と国連の報告書が明らかに(外部英語サイト)
*3:The World Obesity Atlas 2023:「太りすぎと肥満の経済的影響は2035年までに4兆円を超える見込み(外部英語サイト)
少なすぎることと多すぎること - 世界の危険な不均衡を象徴しているこれらの数字が恐ろしくてたまりません。また、健康な身体をつくり、維持し、日々を健やかに過ごすという「食べること」の本来の役割を、世界中に平等に分配することに人類が失敗したことも、この数字は表しています。
SDGs(持続可能な開発目標)ゴール2「2030年までに飢餓をゼロにする」を達成するためには、その根本的原因を総合的に、かつ、共通の理解としてとらえる必要があります。
栄養不良の共通した原因は、すべての人々が手頃な価格で健康的な食生活を継続的に送れない食料システムにあります。紛争は、人々から家や資源を奪い、経済活動を壊します(コンゴ民主共和国、ソマリア、ウクライナを見れば一目瞭然です)。気候変動、不均衡、また、経済状況の悪化も大きく影響しています。
一方で、手頃な価格で手に入る食品が必ずしも身体に良いわけではありません。私たちの健康を最も脅かす類の食品 - そう、栄養ゼロの高カロリー食です-これらは往々にして最も便利で安く、巧みに広告されています。幼少期を低栄養で過ごした経験や、長時間座っている生活スタイルも肥満に繋がりやすく、一生の中で飢餓と肥満の両方を経験する人も少なくありません。
この飢餓と肥満の問題は、マクロとミクロ両方の視点で適切な対策をすれば、解決できると私は考えています。特に最もぜい弱な人々の人生に変革をもたらすには、緊急時であっても、量的にも質的にも十分な食料に、継続的かつ簡単にアクセスできる食料システムの構築が不可欠です。
そのためには、以下の行動が必要です。
• 飢餓撲滅への投資
WFPによると、2030年までに世界中の飢餓人口を救い、飢餓を撲滅するには年間400億ドルが必要とされています。
• 気候変動の緩和対策
ワールド・ビジョンはCOP27に支援地域の若者と共に参加し、政策決定者に彼らの声を届け、緑を取り戻すための「FMNR*4 アプローチ 」を提唱しました。
*4:Farmer Managed Natural Regeneration(FMNR)
農家の手で管理される自然再生の方法。低コストで始められ、また貧困や飢餓に苦しむ農家自身が行うことでレジリエンス(回復力)を高められるとされる。伐採された木の切り株から芽を育てるなどして森を育み管理することで土壌の回復や生物多様性を促進し、農家は作物を収穫・販売できるようになる仕組み。詳しくはこちら(英語)
• 飢餓状態寸前の人々のための「セーフティネット」
ワールド・ビジョンは、2022年5月から世界規模の飢餓対応事業を実施し、これまで約2,000万人に緊急の保健・栄養サービス、現金給付など様々な緊急支援を実施してきました。WFPと協働する最大のNGOとして、ワールド・ビジョンは緊急時に人々にいち早く食糧を届けています。
• 栄養不良の根本原因へのアプローチ
ワールド・ビジョンは、生後1,000日間の完全母乳哺育の推奨など、子どもの健康にとって鍵となる対策を実施しています。また、人々が安全な水と衛生へアクセスできるよう支援し、栄養の吸収を妨げている下痢症の予防にも注力しています。
• 衡平な栄養サービス
ワールド・ビジョンは、最も弱い立場にある子どもたちに基本的な栄養を届けるために、重要な役割を担う保健システムの最前線を強化するため、アドボカシーと能力強化に取り組んでいます。
• 良質な食にアクセスするための生計向上
ワールド・ビジョンは地域内に貯蓄グループを立ち上げ、特に低所得世帯が小規模ローンを組み、生計向上の手段を増やせるように励ましています。
• 健康的なライフスタイルの啓発
ワールド・ビジョンは家庭菜園で育てられる品種の増やし方や栄養価の高い食事を調理する方法を啓発しています。
私は、飢餓で命を落とす子どもを目の前で見たことがあります。その子どもの名前と顔は一生忘れることがないでしょう。
彼の死が防ぐことができた死であったことを思うたびに、非常に腹立たしく感じます。また、今後、肥満のために人生を早く閉じる子どもたちが出てくることを思うと悲しくてたまりません。
しかし、私は絶望していません。食料システムを改善し、飢餓の危機に終止符を打てると信じています。ワールド・ビジョンは、希望と祈りを土台に活動しています。すべての子どもたちが、神に与えられたゆたかな命を全うできますように。
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アンドリュー・モーリーは2019年にワールド・ビジョン総裁/最高責任者に就任し、3万4,000人以上のスタッフとともに働き、ワールド・ビジョンの100カ国での活動に指導的役割を果たしています。
危機に直面している子どもたちの声