(2022.10.28)
飢餓がまん延する時、子どもの保護に関わる課題が表面化します。ワールド・ビジョン(WV)では、子どもの保護を専門として活動するスタッフが世界中で活動しています。
ケニアでチャイルド・プロテクション・セーフガーディング・オフィサー(子どもたちと、支援地域の人々の保護を専門に担当するスタッフ)として活動するエバーリンスタッフもWVで働く子どもの保護の専門家のひとりです。支援の最前線にいるエバーリンスタッフが、飢餓と子どもの保護の関連性と、WVの子どもの保護の活動が子どもの人生をどのようにより良い方向に変えているかについてご紹介します。
紛争、新型コロナウイルス感染症のまん延、気候変動、生活費の高騰といった致命的な課題が重なり、東アフリカ全体で約3,900万人が飢餓に追いやられています。中でも、気候変動による干ばつやバッタの大発生によってケニア北部で暮らしている子どもたちの環境はより一層深刻になっています。
今日、ケニアに暮らす子どもの約3人に1人が栄養不良に苦しんでいます。
ケニアの生後6カ月~5歳未満の子どものうち、884,464人が急性栄養不良で治療を必要とされています。
私はケニア北部に位置する、食料が不足している村で育ち、飢えが子どもたちにどのように影響するか身をもって理解しています。特に幼児には、栄養不良や、それに伴う様々な合併症を引き起こす可能性があります。安定して必要な量の食料を確保できないことは、子どもたちがやせ衰える主要な原因です。
栄養不良は5歳未満の子どもが命を落とす原因として予防可能なもののうち、約半分、45%を占めます。急性栄養不良に苦しむ子どもは、栄養状態の良い子どもと比較して、命を落とす可能性が11倍も高いのです。
想像してみてください、もしもあなたがそんな子どものひとりだったら。
絶望的な気持ちになるでしょう。誰も助けてくれないような気にすらなるでしょう。
しかし、私は幸運でした。支援を受けることができたのです。人道支援団体が食料を届けてくれる日のことを今でもよく覚えています。トラックが来るのを見つけると、とても嬉しくなりました。その日は何か食べるものがあって、次の日はお腹を空かせたまま学校に行く必要がないと分かっていたからです。
食べる物さえあれば人生が満たされるという訳ではありません。
学校には本がなく、子どもたちは女性性器切除(FGM:Female Genital Mutilation, 主にアフリカのおよそ30カ国で行われている儀式的行事)や児童婚などの課題に頻繁に直面していました。私は今、チャイルド・プロテクション・セーフガーディング・オフィサーの仕事を通じて、飢餓も子どもの保護の問題であり、飢餓が子どもの安全を脅かしていることをよく理解しています。
食料を買うのに必要な収入がない家庭では、子どもが学校をやめて家族を養うために働くようになります。学校に通うことができても、十分な食料がなく、お腹が空いていると子どもたちは勉強に集中することができません。
WVの調査で以下のことが明らかになりました。
児童婚も懸念されています。
繰り返しになりますが、飢餓の危機が追い風になっていますが、多くの村では伝統的に児童婚がよしとされています。ケニアでは娘が結婚すると家族が婚資を受け取ることができるため、多くの場合、女の子は結婚させられます。結婚に際して、花嫁の家族は牛などの動物や金銭を受け取り、これらの物品や資金は家族の生活を支えるのです。
私は現地で起きている児童婚の実情を正確に知るために、地元当局と緊密に協力しています。最近、私が働いていた村で9歳の女の子、アンナちゃん(仮名)が助けを求めてきました。彼女の両親はアンナちゃんが幼いにも関わらず結婚させようとしました。結婚することは、学校にもう通えなくなることを意味します。そのため、アンナちゃんが結婚を拒むと、両親は彼女と親子の縁を切ると言ったのです。
このような事例に対処するために、私は地元当局と協力して解決策を模索しています。
今回、幸いなことに、私たちは彼女の両親を説得することに成功し、彼女は両親に支えられ、学校に通い続けることができました。
私が人道支援に携わるのは、このような困難があるにもかかわらず、アンナちゃんのような子どもたちが前を向いて生きていくのを支えたいからです。今回の事例を通じてアンナちゃんは、彼女には婚資相当の価値しかないと考えていた両親に対して、自分が持っている可能性の大きさを示すことができました。
子どもを育てたり、困っている人々を助けるには、コミュニティ全体や村が一丸となって取り組むことが必要です。
緊急事態が発生した時、その困難に真っ先に直面し、そして、立ち向かっていくのは、常に困難にある人々自身なのです。
世界中のぜい弱な立場に置かれた子どもたちのために、WVとともに歩みをすすめる「ヒーロー」一人ひとりへの感謝の気持ちを忘れずにこれからも活動を続けてまいります。