(2021.07.19)
サミラさん(仮名)は、学校に行くのが大好きでした。しかし彼女が14歳の時、貧困にあえいでいた家族の生活はますます苦しくなり、学校に通わせてもらえなくなりました。家族はサミラさんが仕事を見つけられるようにと、彼女をインドの商業都市ムンバイに暮らす親戚のところに送り出しました。
サミラさんは教育を受け続けることを切望していましたが、家族には金銭的余裕はありませんでした。彼女は重い気持ちのまま、西ベンガル州の農村から「夢の街」として知られるムンバイまで2,000キロの旅をしました。
ムンバイに着いたサミラさんは、姉の夫に仕事を探してくれるように頼みました。するとある日、義兄は良い仕事のチャンスだと信じ、後に人身取引業者となる人物に彼女を引き渡しました。いとも簡単にサミラさんは、商業的な性的搾取の世界に押し込まれてしまったのです。
囚われの身となった3カ月間は悲惨でした。サミラさんは言います。「働いた時しか食べ物をもらえませんでした。仕事を拒否すると、売春宿の主人やお客さんでさえ私をベルトで殴りました。ビールとお酒を飲むことを強制されました。タバコの吸い殻で私の手に火傷を負わせたりもしました。私はたくさん泣いて、家に帰らせてと懇願しました。私を売ったのは義兄だったと、売春宿の主人が言うのを聞きました」
ある日、サミラさんは数人の少女たちと一緒に、仕事のためにホテルに連れて行かれました。すると突然、そこに警察の家宅捜索が入りました。「私は警察官のもとに走りました。私は彼らに、助けてくれと言いました」その後、義兄と売春宿の主人は拘留され、サミラさんと家族は今も彼が刑務所にいると信じています。
救出された後、サミラさんは約9カ月間、シェルターで過ごしました。そこでは、新しいスキルを学ぶ時間や癒しの時間が提供され、忙しく日々を過ごしました。その間、彼女の最年長の姉が後見人になる申請をし、ようやく家に戻ることができました。
「初めて村に戻った時、私はひたすら家の中にいました。村人たちは私を馬鹿にして、嘲笑の対象にされました。恥ずかしくて外に出られませんでした」と、サミラさんは涙ながらに当時の様子を話してくれました。
2019年10月、サミラさんはワールド・ビジョン・インドの、子どもの人身取引と性的搾取を根絶するプログラムに従事するケースワーカー、モスミに初めて会いました。モスミは、若い被害者のメンタルヘルスをサポートする上で重要な役割を果たしています。「サミラは誰かと話す必要がありました。彼女は最初、とても静かでしたが、のちに心を開いてくれました」彼女はサミラさんの家族にも支援プログラムの内容を説明し理解を得ると、性的人身取引の被害者49人からなるグループにサミラさんを登録しました。
モスミは、サミラさんに学校に戻りたいかと尋ねました。もし彼女が望むなら、同プログラムを通じて教育費の援助を受けられるようにしたいと考えていました。しかし彼女は、幼い子どもたちと一緒に教室にいることを望みませんでした。彼女は臆病になっており、学校に行くことで恥ずかしい想いをすることが嫌でした。
人身取引(人身売買)は、「現代の奴隷制」とも呼ばれる深刻な人権侵害のひとつで、国際社会から重要課題として認識されています。日本でも年間約40~60件が警察によって検挙されており、私たちの身近にも潜む犯罪です。人身取引の被害者は、強制労働、性的搾取、臓器売買等によって権利と尊厳を奪われ、肉体的・精神的に深刻なダメージを受けます。
7月30日は国連が定めた人身取引反対世界デー。まず知ることが問題解決の一歩となります。
人身取引について詳しく知るにはこちら。