(2021.06.10)
第二回は、避難生活を強いられる子どもたちに新型コロナウイルス感染症がおよぼす影響についてです。
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国際NGOのWar Child Hollandとワールド・ビジョンが発表した報告書『The Silent Pandemic(サイレント・パンデミック)』*1によると、難民や国内避難民となった子どもたちの70%が、メンタルヘルス支援や心理社会的支援を必要としていることが分かりました。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前に推定されていた値(22%)の3倍以上にあたります。
同報告書は、紛争地域で暮らしている子どもや避難を余儀なくされた子ども等、紛争の影響を受けるすべての子どもたちを対象に、新型コロナとロックダウンによる精神面での影響を評価しています。ぜい弱な国々のホストコミュニティ(難民を受け入れている地域)に住む子どもの57%は、新型コロナとロックダウンの直接的な影響として、メンタルヘルス支援と社会心理的支援の必要性をあげました。その値は、難民と避難民の子どもに限定すると70%に上昇します。
ワールド・ビジョンのアドボカシー・渉外担当、デイナ・ブズセアは次のように述べます。
「新型コロナは、世界中で多くの人々が直面しているメンタルヘルスの問題を悪化させています。しかし、命を脅かす紛争とその恐怖、トラウマ、慢性的なストレスをすでに抱えながら生きている子どもたちにとってその影響は深刻で、子どもたちは非常に大きなダメージを受けています。子どもたちは今まで以上にメンタルヘルス支援を必要としているにもかかわらず、そのニーズはほとんど満たされません。紛争の影響を受けた地域や難民キャンプでの既存の支援には限りがあり、需要に追いつくことができないのです」
調査は、紛争の影響下にある6つのぜい弱な国・地域*2に住む約500人の子どもと若者*3を対象に実施されました。すでにストレスの多い生活を送る子どもたちにとって、新型コロナからくる感染への不安、身内を失うことへの不安、学校や教育施設の閉鎖への対応等がさらなる心配事としてのしかかり、心理的苦痛を悪化させていることが明らかになりました。
また、スポーツや遊び、家族(特に両親)と過ごすこと、平和を促進するための活動、そして学校の再開を望んでいることが分かりました。さらに、7-14歳の86%と15-17歳の81%が友人や家族に心理的なサポートを求めることができると回答した一方、19-24歳では41.8%にとどまり、若者たちが孤独に苦悩している姿が浮き彫りとなりました。
「紛争や暴力を経験した子どもたちは、メンタルヘルス支援と心理社会的支援へのアクセスを緊急に必要としています。しかし、これらの子どもたちが暮らしている国々では、国の保健予算のわずか2-4%がメンタルヘルスに費やされているにすぎません。さらにこれらの資金には限りがあるか、紛争の影響を受ける地域の子どもたちには充てられておらず、悲惨な資金不足に陥っています」とブズセアは付け加えました。
現在、メンタルヘルス支援と心理社会的支援のための資金は、すべての人道支援の健康分野における資金のわずか1%です。ワールド・ビジョンとWar Childは、影響を受けた推定4億5,600万人の子どもたちに緊急のメンタルヘルスサポートを行うため、14億米ドルの資金援助を国際社会に要請しています。
「世界は、何百万人もの少女や少年たちの子ども時代を奪う紛争を傍観し、容認してきました。いま、世界的なパンデミックがこれらのぜい弱な子どもたちの苦しみを増大させています。必要な関心、迅速な行動、資金がなければ、世界の子どもたちが精神衛生上の危機に直面する可能性が高くなります。手遅れになる前に、いま、行動する道義的責任が私たちにはあります」とブズセアは語りました。
*1 報告書の詳細はこちら
*2 調査対象国・地域: コロンビア共和国、コンゴ民主共和国、ヨルダン、レバノン、パレスチナ、南スーダン
*3 ワールド・ビジョンとWar Child Hollandは、220人の子どもたち、245人の若者、287人の保護者、44人の子どもの保護の専門家と地域のリーダーからヒアリングしました
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