[スタッフ座談会] 今「教育支援の現場」で何が起きているのか

(2016.4.8)

教育を支えて、未来をつくろう ~難民支援とチャイルド・スポンサーシップの現場から~

左から蘇畑スタッフ、國吉スタッフ、村松スタッフ、松岡スタッフ

世界では、5800万人の学齢期の子どもが学校へ通えず、小学校を卒業できない子どもは1億人にのぼります。
昨年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、「すべての人が公平に受けられる質の高い教育の完全普及と、生涯にわたって学習できる機会の向上」という目標を掲げました。紛争が原因で学校へ通えない子どもの増加や、貧困地域での教育の質の低さが、克服すべき課題として指摘されています。

すべての子どもが"豊かないのち"を生きられるようになることを目指すワールド・ビジョンにとって、教育支援は核となる活動の一つです。
教育支援の現場で、今、何が起きているのか。日々支援の現場で挑戦を続けている4人のスタッフに聞きました。

 ・蘇畑 光子 チャイルド・スポンサーシップ アジア担当
 ・國吉 美紗 元シリア難民 教育支援担当
 ・村松 良介 南スーダン難民 教育支援担当
 ・松岡 拓也 チャイルド・スポンサーシップ アフリカ・中南米担当

ヨルダンでのシリア難民教育支援

●シリア難民の数は400万人を超えましたが、そのうち62万人以上が逃れているヨルダンで、ワールド・ビジョン・ジャパンは、難民の子どもたちと、難民を受け入れているヨルダンのコミュニティの子どもたちのために補習授業を行っています。なぜ補習が必要なのですか?

 國吉ヨルダンに住むシリア難民の約8割は、難民キャンプではなく、ヨルダン人が暮らすコミュニティで暮らし、子どもたちはヨルダンの学校に通っています。でも、紛争で学校に行けない期間が長かったために授業に落ちこぼれたり、いじめや差別を受けて学校に通えなくなってしまう子どもが多いのです。

●なぜ、難民だけでなく、ヨルダン人の子どもにも支援を?

 國吉
大量のシリア難民の子どもたちがヨルダンの学校に通うことになったため、学校は大混雑で、授業は2部制で行われています。教育環境の激変によりヨルダン人の子どもたちの学力低下も心配されるため、支援を行っています。

シリア難民の子どもたちと國吉スタッフ

エチオピアでの南スーダン難民教育支援

2011年に独立したにもかかわらず、2013年に再び内戦状態へ戻ってしまった南スーダン共和国。60万人以上が難民として国外へ逃れています。

●ヨルダンでのシリア難民支援とはどう違いますか?

 村松
:ヨルダン人とシリア難民が共存しようとしている環境と違い、僕が担当しているのは、南スーダン難民だけが暮らす難民キャンプ内での教育支援です。何もなかったところに学校を建てて、運営しているところが大きな違いです。

南スーダン難民の子どもたちと村松スタッフ

●キャンプにはどれぐらいの難民が住んでいるんですか?

 村松2014年5月には7200人程度だったのですが、それから2~3カ月で4万6000人以上になりました。キャンプ人口の6~7割が子どもで、ワールド・ビジョン・ジャパンの事業では、5~8年生の5200人を対象にしています。

●どんなやりがいがありますか?

 村松:学校ができると聞いた子どもたちは、「いつできるの?」「いつ通えるの?」とものすごく楽しみにしてくれました。「学校に通う」ということは、子どもが安定した日常生活を送ることに直結します。荒っぽかったキャンプの様子が、学校ができてからずいぶん落ち着きました。

エチオピアの難民キャンプで学ぶ南スーダンの子どもたち

チャイルド・スポンサーシップによる長期支援

●チャイルド・スポンサーシップの特徴は何でしょう?

 松岡チャイルド・スポンサーシップは、長期支援なので、支援を受ける人たちが自分で問題解決のために何が必要かを考えて実践していくことができます。

 蘇畑:教育分野だけでなく、水衛生、保健、栄養、収入向上等、他のニーズにも応えながら、総合的な支援を行うので、相乗効果が生まれていると思います。

 松岡ケニアの支援地域では水衛生支援の一環として学校に井戸や給水タンクを設置しました。そうしたら、子どもたちが学校に持ってくる水を遠くまで汲みにいく必要がなくなったので、学校に通いやすくなったんですよ。

 蘇畑:学校にトイレを作るのも大切ですよね。男女が別棟になっていると女の子も安心して利用できるようです。逆に女の子はそうした設備がないことが理由で学校へ行かなくなってしまうこともあるんですよ。

支援地域に住む子どもたちと蘇畑スタッフ(インドにて)

教育の質向上と、学び続けるためのチャレンジ

●「持続可能な開発目標(SDGs)」では「質の高い教育」がキーワードのようです。緊急支援で「質の高い教育」を実施するなんてとても難しそうですが...

 國吉「緊急」だからこそ「質」が大事なんです!すべてを失った難民の子どもたちが、いつか紛争が終わって国を再建するときに、そして自分の人生を歩んでいくために、未来を託せるのは教育しかないんですから。

●「教育の質」って具体的には何を意味するのでしょう?

 國吉:安全に学べる環境なのか、性別や宗教による排除はないか、学用品など必要なものはそろっているか、先生と生徒の人数の割合は適正か、先生の質や、カリキュラム(どこの国のカリキュラムをどの言葉で学ぶのか)など、緊急下の教育支援で守るべき基準が、国際的に定められています。

●なるほど。チャイルド・スポンサーシップの支援ではどのように「質」の向上を実現していますか?

 松岡:教育の質を高めるためには、先生が大切です。2015年に支援が終了したタンザニアのンゲレンゲレ地域では、教員住宅の建設を支援しました。ンゲレンゲレは遠隔地なので、赴任を避ける教師が多かったのです。教員住宅を充実させたところ、いつまでも住み続けたいという先生が出てきたぐらいです(笑)。
先生の影響力は大きいです。95年には5%だった7年生(日本では中学1年生)の就学率が、2013年には90%まで改善し、今では大学まで進学する生徒が出てきたんですよ。


●アジアの状況はどうでしょう?

 蘇畑:性別による排除ということで話すと、女性差別のイメージが強いバングラデシュをはじめ、初等教育で男女格差の解消が進んでいます。でも、問題はその後です。例えば、バングラデシュのビルゴンジ地域では11~18歳の中退率は14.7%。女の子の場合は早婚のために退学せざるを得ない場合が多いです。

●学び続けるためにできることはあるのでしょうか?

 蘇畑:早婚をすぐに無くすことは難しいですが、早婚のリスクや教育の重要性について啓発活動を続けています。また、中学校が遠くにあるために通うのをあきらめざるを得ない女の子も多いので、中学校のそばに女子寮を建設して中学進学をあきらめずに済むよう対策しています。

「難民支援でもチャイルド・スポンサーシップでも、大切なことは変わらない。30年後にどんな花を咲かせられるのか、可能性とパワーを秘めているのが教育支援の醍醐味です」(担当スタッフ一同)

教室だけでなく、教員用住宅を建設し、子どもの就学率が85%も改善(松岡スタッフ、タンザニアにて)
支援によって学校に通えるようになったヒラちゃん(ネパール)

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