世界では多くの子どもたちが、幼い頃から働いています。児童労働については国際労働機関(ILO)が1973年に「就業の最低年齢に関する条約」を採択しました。その条約では、就業の最低年齢を義務教育終了年齢である15歳と定め、若年者の健康、安全、道徳を損なうおそれのある仕事への18歳未満の就労を禁止しています(注1)。
しかし実際は18歳未満でも、危険で有害な労働を強いられている子どもたちは依然として多いのが現状です。この記事では、世界における児童労働の現状について詳しく紹介します。世界中の子どもたちがどのような労働をしているのか、また日本における児童労働の現状は一体どのようなものか、解説します。
そして今の私たちに何ができるかを考えてみましょう。
ILOと国連児童基金(ユニセフ/UNICEF)の共同調査によると、2020年時点で働いている子どもは世界中に約1億6,000万人もいることが分かっています。中でも危険有害労働の仕事に就いている子どもは、約7,900万人にものぼります(注2 p.12)。
男女比でいうと全体の60.7%が男の子、約39.3%が女の子です。年齢別で見ても、男の子のほうがより高い割合で労働に従事しています。年齢が上がるほど男女における労働率の差は大きくなり、15〜17歳では男の子の労働割合が女の子の約2倍です(注2 p.31)。
さらに2000年から減少傾向にあった児童労働数ですが、2020年は2000年代に入って初めて増加に転じました。この背景には新型コロナウイルス感染症の拡大により、開発途上国を中心に経済状況が悪化したことが大きく影響しています(注2 p.8)。
男女別で児童労働の割合を見ると、女の子の労働率は減っているにもかかわらず、男の子の労働率だけが増加しました。このデータから、それだけ力仕事や肉体労働を強いられている子どもが多いことが分かります。
このように、本来学校で教育を受けられるはずだった多くの子どもたちが、経済状況の悪化によって危険な労働を強いられているのが現状です。児童労働の定義や原因について解説している記事もあるので、より理解を深めたい人はぜひそちらもご覧ください。
世界で最も児童労働数の多い地域は、サハラ以南のアフリカです。ケニアやソマリア、スーダンといった地域の児童労働数は、約8,660万人にものぼります。これは世界の児童労働数の半数以上を占める割合です。
ILOのレポートによれば、サハラ以南のアフリカでは2022年以降も児童労働数が増加すると見込まれています。2030年には児童労働数が約9,000万人にのぼると予想されており、経済状況の改善を含め対策が必要です(注2 p.25)。
またサハラ以南のアフリカ以外の地域ではアジア太平洋、ラテンアメリカ・カリブ海地域が特に児童労働数の多い地域として挙げられます。アジアでは特に、中国の貧しい農村地域での児童労働が多いです。ラテンアメリカ地域では、ブラジルやコロンビアなどで子どもの農業従事が問題視されています。
いずれにしても児童労働は貧しい地域で発生しやすく、多くの子どもたちは低賃金の仕事に従事させられるケースが多い現状です。
ILOの発表では、世界の児童労働のうち約70%が農業に関する仕事だとされています。次に多いのが約19.7%のサービス業で、約10.3%が工業と続きます(注2 p.13)。特に、農作物が主な収入源となっている地域は低賃金かつ人手が足りていないケースが多いです。子どもを労働力として使役するケースが目立ちます。
現に働いている世界中の子どもたちは、男女ともに7割近くが「親の家業を手伝う」形で就労しています(注2 p.13)。家族経営というと聞こえは良いかもしれませんが、その中には子どもの安全をおびやかすような、危険な労働もあるようです。
こうした子どもにとって危険な仕事を、ILOでは「最悪の形態の児童労働」と定めています。最悪の形態の児童労働の定義は以下のとおりです(注3)。
国ごとに、児童労働の現状は異なります。児童労働の問題を抱えているのは、日本も決して人ごとではありません。ここからは、国ごとの児童労働が一体どのような現状になっているのか見ていきましょう。
ガーナ共和国は、児童労働の最も多いエリアである、サハラ以南のアフリカに位置する国です。農業や鉱業を主な産業としており、特にチョコレートの原料であるカカオの輸出を中心に行っています。
シカゴ大学の研究機関であるNORCの発表によれば、ガーナ共和国では約77万人もの子どもがカカオ生産に従事しているとのこと。これはガーナ共和国の子どもの約55%にものぼる割合です。さらに働く子どものうち8割以上が、ILOで禁止されている有害危険労働に従事しています(注4)。つまり仕事のせいで教育機会を失ったり、健康や安全をおびやかされていたりするということです。
この背景には、カカオが低賃金で業者から買い上げられる仕組みが影響しています。カカオがチョコレートになるまでにはメーカーや小売業者など、さまざまなステークホルダーの経由が必要です。そのため、小売価格から逆算すると生産者の手元にはほんのわずかなお金しか支払われません。
例えば板チョコレートが1枚100円なら、生産者の手に渡るのはたったの6円60銭(注5)です。こうした低賃金の恒常化が、子どもの手を借りざるを得ない大きな要因となっています。
南アジアに位置するインドでも、児童労働が問題となっています。インドは中国に次いで世界第2位のコットン生産量を誇る国です。しかしその背景には、学校にも行けずコットン栽培に従事する子どもたちが多くいます。
コットン栽培に携わるインドの子どもたちは40万人以上で、その7割以上は女の子です。コットン栽培では学校に行く機会が損なわれるだけでなく、農薬を吸い込んでしまうこともあり直接身体に害がおよぶケースが少なくありません(注6)。このように、特に農村地域での貧困と児童労働は非常に深刻です。
また、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、ロックダウンしたことで多くの人々が職を失うこととなりました。農村地域だけでなく、こうした都市部の経済不安も児童労働の一因となっています。
インドにはカースト制度という独特な格差制度があるため、児童労働の多い貧困層がある一方、一定数の高所得層がいるのも事実です。宗教や文化を超え、すべての子どもたちが望まない労働から解放されることが大きな課題となっています。
インドの貧困問題については「インド貧困問題の原因は格差?貧困率や現状、私たちができる解決策を紹介」でも解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。
児童労働は、日本においても隠れた問題の1つです。日本の17歳以下の子どもの相対的貧困率は、13.5%(2019年時点)であり、ドイツやイギリス、フランスなどのヨーロッパ諸国と比べると高い数値となっています。つまり、平均的な生活を送れない子どもが日本にも多くいるということです(注7)。
児童労働の現状としては性的搾取の対象となったり、肉体労働で使役されたりとさまざまです。日本において義務教育を受けられない子どもはほとんどいないものの、精神的肉体的苦痛を伴う仕事を強いられている子どもは少なくありません。
警視庁が公開しているデータによれば、2020年時点で子どもの性的搾取に関する犯罪の摘発数は2,409件となっています。実際に被害に遭った子どもは1,531名にものぼっており、児童買春や児童ポルノの製造事犯は大きな問題です(注8)。
2017年には15歳の少女が工場での勤務中に屋根から落下し、死亡するといういたましい事故が起きました。当時この少女が行っていたのは、18歳未満の就労が禁止されている危険有害労働です(注9)。
このように、日本でもいまだに児童労働が行われています。企業が知らぬ間に児童労働の一翼を担っている場合もあり、より一層児童労働について周知していくことが今後も課題です。日本の子どもたちについては、「これからの日本の子どもたちのために今、私たちに何ができるかを考えよう」でも詳しく解説しています。
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チャイルド・スポンサーから贈られてきたバースデーカードに喜ぶ女の子
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注1 国際労働機関(ILO):1973年の最低年齢条約(第138号)
注2 国際労働機関(ILO):CHILD LABOUR
注3 国際労働機関(ILO):児童労働に関するILO条約
注4 NORC:コートジボワールとガーナのカカオ栽培地域における児童労働削減の進捗状況の評価
注5 朝日新聞:子どもが犠牲になっているチョコ、知っていますか? つなぎ役の奮闘
注6 ACE:インド・コットン生産地の児童労働
注7 日本財団:子どもの貧困対策
注8 警視庁:【児童買春事犯等】検挙件数・検挙人員・被害児童数の推移
注9 日経ビジネス:日本にもある児童労働 ついに死亡事故まで発生
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