東アフリカのウガンダは、かつてウィンストン・チャーチル元英国首相が「アフリカの真珠」と呼んだことで有名です。緑豊かな大地と壮大なビクトリア湖、そして世界最長のナイル川が織りなす景観は豊かで美しく、ゴリラなどの野生動物が見られることも手伝って、多くの外国人を魅了しています。
その一方で、教育には未だに多くの課題を抱えた国でもあります。
この記事では、ウガンダの教育制度や教育関連のデータを紹介し、ウガンダの教育の特徴や問題、その背景を詳しく解説します。ウガンダの教育の現状を知り、日本の私たちにどんな支援ができるかを考えてみましょう。
ワールド・ビジョンからプレゼントされたラジオとともに勉強に励む少年
まずは、ウガンダの教育制度や現在の状況を見てみましょう。ここでは、制度の概要を解説したうえで、ウガンダの教育の現状を表す各種データを紹介します。
ウガンダの教育制度は7-4-2制で、7年間の初等教育、4年間の前期中等教育、そして2年間の後期中等教育で構成されます。このうち、7年間の初等教育は義務教育とされており、6歳で入学することとされています。日本の教育制度で言うと、初等教育が小学校、前期中等教育が中学校、後期高等教育が高校にあたります。
中等教育の実施主体には、普通教育を実施する中等学校のほかに、職業技術教育を実施する前期中等技術学校(3年)および後期中等技術インスティチュート(2年または3年)が存在します。
こうした7-4-2制の教育に加え、初等教育の前には、2~5歳を対象とした就学前教育が、主に都市部の保育学校で実施されています。
また、後期中等教育の後には、3~5年間の高等教育も存在します。大学のほか、技術系や教員養成などの高等職業教育機関で実施されるものです。大学の場合、学士課程(3~5年)、修士課程(1~3年)、博士課程(2年以上)が設置されており、高等職業教育機関の場合は、一般ディプロマ(3年)、高等ディプロマ(2年)などを取得する課程が提供されています(注1)。
ウガンダの教育スポーツ省が公表している最新のデータ(2016年分)によると、教育段階別の粗就学率と純就学率は次の表のとおりです(注2)。
なお、粗就学率 (Gross Enrolment Rate)とは、その年の入学者数を、その年に入学すべき年齢の人口で割った比率です。本来入学すべき年齢よりも遅れて入学する場合があるため、粗就学率は100%を超えることがあります。これに対し、純就学率 (Net Enrolment Rate) は、本来入学すべき年齢の入学者数だけを、その年齢の人口で割った比率です。
粗就学率 |
純就学率 | |
---|---|---|
就学前教育 | 15.8% | 15.6% |
初等教育 |
110.0% |
92.1% |
中等教育 |
27.1% |
24.0% |
初等教育の就学率は高いものの、中等教育の就学率はわずか20%台となっており、多くの子どもたちは義務教育以上の教育を受けるのが難しいということが読み取れます。
同年の小学校の修了率(P.7 Completion rate)は61.5%となっていますので、就学年齢の子どもたちの大半が小学校に入学できる反面、7年間通い続けて卒業できるのは、そのうちの6割強にとどまるという厳しい現実が見えてきます(注2)。
ウガンダでは小学校の修了率や中等教育への進学率が低いという課題が見えてきましたが、ウガンダの教育には特筆すべき点もあります。その一方で、様々な問題点もあります。このようなウガンダの教育の特徴と問題点を、それぞれ詳しく見てみましょう。
ウガンダの教育の特色として、エイズ教育への注力が挙げられます。ウガンダは世界に先駆けてエイズ(HIV/AIDS)の爆発的な流行を経験した国であり、また世界で初めて国家元首がエイズの感染拡大を「国の安全保障に関わる緊急事態」として公言した国でもあります。こうして注目を集めたことで世界中から支援が集まり、様々な対策が実験的に導入された結果、ウガンダは感染率を劇的に低下させることに成功しました(注3 41頁)。
こうした経緯から、ウガンダはエイズ対策の成功例として広く知られていますが、国際連合エイズ合同計画(UNAIDS)によると、ウガンダでは2019年時点で未だ150万人前後の人々がHIVに感染しているとされます(注4)。
大統領自身が感染率低下の要因として予防・啓発活動の成功を強調していることもあり(注3 58~59頁)、ウガンダでは現在もエイズ教育に力が入れられています。小学校では保健やエイズ対策の授業に多くの時間が割かれ、集会などでは必ずエイズの話をするように教育省が指導しているといいます(注5)。
このように特色ある教育を行っているウガンダですが、教育にかかわる問題点も数多く挙げられます。主な問題点の一つとして、女子教育の現状を見てみましょう。
先に紹介した教育スポーツ省のデータによると、初等教育の就学率では女の子が男の子を少し上回っています(注2)。しかしながら、子どもが女の子のみの世帯では、初等教育に支出する金額が相対的に少ないことが研究で明らかにされており、女子教育が軽視されている可能性が指摘されています(注6 p.25)。
ほかの研究でも、家庭の経済状況が悪化した場合や兄弟姉妹が多い場合に、男の子を優先的に学校に通わせる可能性が高いことが指摘されています(注7 p.20)。このように、初等教育の就学率だけを見れば男女間に格差はありませんが、学習環境や学習の過程などに目を向ければ、女の子が不利な状況に置かれていることがわかります(注7 p.23)。
それでは、ウガンダではどうして女子教育に課題があるのでしょうか。
ウガンダには、女の子が教育を受けることに根強い抵抗を持っている地域が存在し、そうした地域では女の子の小学校卒業率が顕著に低いと言われます(注8)。
こうした抵抗には、社会文化的な慣習が関係しています。ウガンダでは結婚の際に男性の家から女性の家に婚資が支払われるため、女性は慣習的に家の資産の一部と見なされます。特に農村部では、女性や女の子は家事に従事するのが当然と考えられており、また女の子は成長すれば結婚し、他家の財産になる存在だという考え方が浸透しているため、女の子に教育は必要ないという考え方が定着しているのです(注7 p.22)。
事実、ウガンダでは婚姻可能な年齢が男女とも18歳であるにもかかわらず、20~49歳の女性の半数にあたる約300万人の女性は、18歳になる前に結婚していたといいます。さらに、15~19歳の女性の4人に1人には妊娠や出産の経験があるとされ、児童婚による女の子の権利の侵害が問題となっています(注9)。
農村部で特に根強い慣習によって、教育へのアクセスや結婚など、女の子の様々な権利が制限されていると言えます。
ウガンダの教育の問題を解決に導くために、ワールド・ビジョン・ジャパンも長年にわたって支援活動を行っています。支援を受けた子どもたちの声を交えながら、近年の活動内容を詳しく紹介します。
ワールド・ビジョンは、チャイルド・スポンサーシップをとおしてウガンダの子どもたちのための支援を継続しています。ウガンダでは、2004年度から支援を行っていた地域での開発プログラムが2019年度に終了し、2020年から新たにロバランギット・カレンガ地域での支援を開始しました。
ロバランギット・カレンガ地域は、世界で最も貧しい地域の1つとされるウガンダ北東部のカラモジャ地方に位置しており、教育へのアクセスが乏しい地域です。この地方では10歳以上の識字率が約27%となっており、ウガンダ全体の平均である74%を大きく下回っています。
ロバランギット・カレンガ地域では、先に紹介したような文化的な慣習が根強く、女の子は基本的に14歳までに結婚し、20歳になるまでに妊娠するため、教育が優先されることはほとんどありません。さらに、この地域では、10歳以上の住民の実に70%は生涯で一度も学校に通ったことがないため、教育への理解も不足しています。学校に通うことができたとしても、初等教育を修了する割合はわずか3.5%にとどまっています。
このような状況を改善するため、ワールド・ビジョンは、次のような支援活動を実施しています。
さらに、子どもの権利と保護を推進するため、啓発や研修、宗教指導者などへの働きかけなどの取り組みも行っています。
この地域では栄養不良の子どもも多いため、保健・栄養改善のための研修や給水設備建設も実施しています。このように、ワールド・ビジョンは、地域の子どもたちが希望を持って成長できるよう、幅広い支援活動を展開しています。
ウガンダでは、ロバランギット・カレンガ地域のほかにも、西部のキルヤンガ地域で2007年から支援活動を継続しています。この地域でも教育への理解が不足しており、小学校を途中で退学してしまう児童が多く、特に女の子の中退率の高さが深刻な問題となっていました。
ワールド・ビジョンが建設した新しい学校に通う14歳のリタちゃんは、こう語っています。
「以前は、石やマットの上に座って授業を受けていたので、毎日制服を洗っていました。制服がすぐ破れてしまうので、私の友だちの中には制服を買う余裕がなく、学校を辞めた子もいました。
新しい教室と机の支援を受けたとき、そのことが地域で話題になりました。中途退学した子や、ほかの学校に転校した子が、戻ってきたケースもありました。私の通っている学校に入学する子どもたちも増えました。私たちはみんな、雨の日も晴れの日も楽しく勉強しています」
2019年に支援が終了したナラウェヨ・キシータ地域では、チャイルドとして長年ワールド・ビジョンの支援を受けた20歳のマンデーさんが、自身の経験をこう語ってくれました。
「私は小学校卒業後、母が授業料を払えず中学校に進めませんでした。その時、皆さまのご支援により、学校に行けない子どものための職業訓練プログラムが始まりました。私は、溶接と金属組立ての 6 カ月コースを受け、村の工場で働き始めました。
今では、母を支え、兄弟たちの授業料を払うことができています。兄弟にはきちんと学校を卒業してもらいたいと思っています。また、私自身はこれから大学に進学したいと考えています。より多くの技術を習得し、自分の工場を始めることが目標です。スポンサーの方のご支援がなければ、地域での私の生活はここまで向上しなかったと思います。皆さまに心から感謝しています」
2人の言葉に表れているように、ワールド・ビジョンの支援活動は、ウガンダの子どもたちに教育の機会やより良い教育環境を提供することで、彼らの人生に確実な変化をもたらしています。
チャイルド・スポンサーシップは、支援地域に住むチャイルドとの関係を育みながら、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整えることを支援するプログラムです。
チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、リタちゃんやマンデーさんのように支援地域に住む子ども、"チャイルド"をご紹介します。ご支援金はチャイルドやその家族に直接手渡されるものではなく、子どもの人生に変化をもたらすことを目指した様々な長期の支援活動に使われます。
チャイルドは、皆さまと1 対1の関係を育み、支えられていく存在です。支援地域がどのように変化し、チャイルドがそこでどのように成長しているかという支援の成果を、毎年お送りする「プログラム近況報告」と、チャイルドの「成長報告」を通じて実感していただけます。さらに、チャイルドからは1年に1度、グリーティングカードが届くほか、チャイルドと文通をしていただくこともできます。
ウガンダで暮らす子どもたち
1日あたり150円(月々4,500円)から支援できるチャイルド・スポンサーシップには、約5万人の支援者が参加しています。ホームページにある専用ページから、支援内容についての詳細や個人情報等を入力していただくだけで、簡単に申し込むことができます。
子どもたちが皆等しく健康で安全な環境で育ち、教育の機会を得て未来に夢を描けるように、チャイルド・スポンサーシップへのご協力をお願いいたします。
注1 文部科学省:ウガンダ共和国
注2 Ministry of Education and Sports:Education and Sports Sector Fact Sheet 2002 - 2016
注3 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所:第2章 ウガンダ―エイズ対策「成功」国における政策と予防・啓発の果たした役割
注4 UNAIDS:Uganda 2019
注5 三野 光雄:ウガンダの教育事情
注6 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所:ウガンダにおける初等教育の就学状況と私的教育支出
注7 西村 幹子:サブサハラアフリカにおけるジェンダーと基礎教育 ―ジェンダー・パリティからジェンダー平等へ―
注8 UNICEF:日本人職員インタビュー 第18回 ウガンダ事務所 中島朋子
注9 UNICEF:FNSチャリティキャンペーン 支援対象国 ウガンダ