バングラデシュは、以前からアジアの最貧国のひとつに数えられてきましたが、縫製業を中心とする輸出業の増加により、近年目覚ましい経済発展を遂げています。
一方で、教育に目を向けるとまだまだ課題も多く、その背景には貧困などさまざまな社会問題が複雑に絡みあっています。この記事では、バングラデシュの教育制度や現状、問題点について詳しく解説します。
まずは、バングラデシュの教育制度を日本と比較しながら見てみましょう。あわせて現状と問題点について、データを用いながら解説します。
バングラデシュの教育制度は、就学前教育(Pre-primary)、初等教育(Primary)、中等教育(Secondary)、高等教育(Teritary)の4つに分かれています。
日本の幼稚園にあたる就学前教育は、3歳から5歳の幼児を対象に行われている教育ですが、義務ではありません。
日本の小学校にあたる初等教育では、子どもが6歳になる年に入学し、5年間(1~5年生)の教育を受けます。バングラデシュではこの小学校での5年間を義務教育と定めています。公立の小学校の授業料は無償であり、公用語であるベンガル語を用いて指導されています。
日本の中学校と高校にあたる中等教育は、日本より少し長い7年間(6~12年生)の教育です。7年間のうちの前期の3年間を終えると、9年生からの後期では生徒が希望する進路に応じて、理系や文系、商業系などのコースに振り分けられます。
日本の大学にあたるのが高等教育です。大学に入学するためには、高校にあたる10年生から12年生の期間に受験が出来る全国統一試験(Secondary School Certificate)に合格しなければなりません(注1)。
続いて、バングラデシュの教育省が発表した2018年の統計調査のデータから、バングラデシュの初等教育の現状を見てみましょう(注2 P12,115,120)。
初等教育への純就学率とは、その年に実際に小学校に入学した児童数を、同年齢の児童の総人口で割った比率です。97.85%という数値からも、ほとんどの子どもが小学校に入学していることが分かります。ただやはり、経済的な理由などで入学できない子どもも一定数いるのが現状です。
一方で、留年率は5.4%、退学率は18.6%となっています。これは40人のクラスに置き換えて考えると、毎年クラスの約2人が留年し、約7人が退学する計算になります。その背景には貧困やジェンダーなどの問題があります。
最終学年の修了率は、小学校の最終学年(5年生)を卒業する割合です。81.4%の子どもが卒業するということは、残りの18.6%、すなわち1クラス(40人)で約7人の子どもが卒業できないことになります。
教員1人あたりの児童数の比率とは、小学校の児童数を教員数で割ることで得られる数値です。すなわち、教員1人がおよそ37人の児童を指導している計算になります。
また小学校の教員は、教員になる前にCertificate-in-Education(C-in-Ed)と呼ばれる訓練を1年間受けることになっていますが、実際にその訓練を修了している教員は全体の7割です。そのため、残りの3割の教員は十分な訓練を受けないまま指導を行っているということになります。
これらのデータから、バングラデシュの教育の問題点として、「留年率・退学率の高さ」と「教員の質・量の低さ」が挙げられます。
日本の小学校ではどれほど成績が悪くても欠席数が多くても留年や退学になることはほぼないため、毎年クラスの2割の児童が進級できないという状況をイメージしにくいかもしれません。進級できない児童が多いことは結果的に修了率の低さにも影響していると考えられますが、初等教育で身に付けるべき最低限の学力を身に付けることができない児童が一定数いることは大きな問題です。
また、児童の学力向上に大きく影響を与える要素の1つが「教員」です。教員1人あたりの児童数として挙げた「37」という数字は、そこまで大きい数字に見えないかもしれませんが、日本の16.2、アメリカの15.2などと比べると、かなり大きいことが分かります(注3)。とくに日本の場合は、クラス担任のほかにも音楽専科の教員や養護教諭など多くの教員が在籍しているため、手厚い指導が受けられていることも影響しています。
このように教員の量的な課題もありながら、一方で3割の教員が必要な訓練を受けていないという質の部分にも課題がある状況は、バングラデシュのように人口が増加し続けている国に多く見られます。
学校教育の質を向上させるためには、まず教員が足りないという状況を改善する必要があります。しかし、質の高い教員をすぐに増やすことは難しいため、十分な条件を満たさない教員でも雇わなければなりません。そのため、教員の質と量を同時に向上させることは非常に難しく、時間がかかるのです。
ここ数年、目覚ましい経済発展を遂げているバングラデシュですが、国連の発表では現在も後発開発途上国(LDC)のカテゴリに分類されています(2021年5月現在)。後発開発途上国とは、国連開発計画委員会(CDP)が認定した基準に基づき、国連経済社会理事会の審議を経て、国連総会の決議により認定された特に開発の遅れた国々のことを指します。特に貧困の問題はまだまだ深刻で、世界銀行が貧困ラインとして基準を定めた1日1.9米ドル以下で生活している貧困層の人々は、国民の14.8%の割合を占めています(注4、2016年時点)。
なかでも貧困は子どもの教育に大きな影響を与えます。なぜなら、貧困家庭において子どもを学校に通わせることは家計を圧迫するため、次第に子どもを学校に通わせられなくなり、それによって欠席が増えた子どもは学校の授業についていけなくなることで、留年や退学につながる、というケースが少なくないからです。
中等教育、高等教育まで受けることができる子どもが少ない一因に、教員の確保の課題が挙げられます。質の高い教員を育成するためには、一定程度の教科の専門性を身に付け、高等教育等で指導法などをきちんと学ぶ必要があるからです。
つまり、貧困問題を解決しなければ、バングラデシュが抱える教育の問題を根本から解決することは難しいと言えます。
貧困は児童労働という新たな問題も引き起こし、子どもたちを教育から引き離してしまいます。国連児童基金(ユニセフ/UNICEF)によると、バングラデシュでは児童労働の問題は大変深刻であり、170万人もの子ども(特に男子)が働いていると言われています(注5)。
その日その日を暮らしていくだけで精一杯な家庭にとって、子どもは重要な労働力の一部と考えられています。そのため、子どもを学校に行かせる余裕はなく、仕事や家の手伝いをさせ、教育を受けさせてあげられないという事情を抱えた貧困家庭が多く存在するのです。
結局、教育を十分に受けることができなかった子どもたちは、待遇の良い仕事に就くことが難しく、大人になっても貧困から抜け出すことができない、といった負のループに陥ってしまいます。
バングラデシュの教育問題としてによく挙げられるものに「ジェンダーによる教育機会の格差」があります。バングラデシュは歴史的にも社会的にもジェンダーによる役割が明確に分けられてきました。特に女性に教育や仕事は必要ないと考えられており、女性だから、というだけの理由で教育や雇用の機会が限定されていることが長年問題となっていました。
しかし、その問題も徐々に解消されてきており、世界経済フォーラム(World Economic Forum)が2021年に発表したグローバルジェンダーギャップ指数ランキングでは、世界65位に位置しています。このジェンダーギャップ指数は、経済、教育、健康、政治の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を意味しています。バングラデシュはこの指数で0.719でした。なお、日本は0.656で世界120位とされています(注6)。
女子教育の状況を初等教育への男女別純就学率で見ても、男子が97.6%、女子が98.2%とほとんど変わらないどころか、女子の方がやや高いくらいまでに改善しています(注2)。
一方で女性の初婚平均年齢は、2015年時点のデータを見ると18.4歳と、かなり低い状況です(注7)。バングラデシュは15歳未満の女の子の児童婚が多い国とされていますが、初婚年齢が低いほど教育を受ける年数も少なくなるなど、まだまだ問題は残されています(注5)。
私たちワールド・ビジョンでは世界の子どもたちが教育を受けることができるよう、開発途上国の教育や学校の支援活動を行っています。
ワールド・ビジョン・ジャパンは、バングラデシュでの支援活動を1988年から現在に至るまで続けています。特に子どもの安全や権利の保護や保健・衛生状況を改善、生計の向上を目的に複数の地域で活動を行っています。その一部を紹介します。
ビロル地域開発プログラム
首都のダッカから北西へ約420Km、車で約8.5時間に位置するディナスプール県ビロル郡は、インドとの国境の近くに位置していることから、人身売買のリスクにさらされる子どもたちも少なくありません。生活状況も困難で、女性への差別や少女の早婚、児童労働、家庭内暴力といった社会問題を抱えています。このような課題を解決するために、次のような支援活動を行っています。
チャイルド・スポンサーシップとは、ワールド・ビジョンを代表する取り組みの1つで、開発途上国の子どもと支援者の絆を大切にした地域開発支援です。支援者の皆さまからの月々4,500円の継続支援により、上述したバングラデシュの取り組みも成り立っています。
チャイルド・スポンサーになっていただいた方には、支援地域に住む子ども「チャイルド」をご紹介します。ご支援金はチャイルドやその家族に直接手渡すものではなく、子どもを取り巻く環境を改善する長期的な支援活動に使わせていただきます(バングラデシュの元チャイルドの声)。
ワールド・ビジョン・ジャパンでは、チャイルド・スポンサーシップを通してバングラデシュだけでなく、アジア・アフリカ・中南米など世界21カ国に支援を届けており(2020年)、子どもの健やかな成長のために必要な環境を整え、支援を受けた子どもたちが、いずれ地域の担い手となり、支援の成果を維持・発展させていくことを目指しています。
公式ホームページの申込専用フォームでチャイルド・スポンサーシップ参加のお手続きを承っています。支援内容についての詳細や個人情報等を入力していただくだけで、簡単に申し込むことができます。
また、ワールド・ビジョンでは、世界のさまざまな問題やそれらに対する取り組みをまとめた資料をご用意しています。皆さま一人ひとりが世界の問題や現状を「知るため」のきっかけとして、ご活用いただけます。詳しくは、「伝える・広める」をご覧ください。
ワールド・ビジョンでは皆さまのご支援・ご協力をお待ちしています。
そんな私たちの活動を支えるのは、
「チャイルド・スポンサーシップ」というプログラムです。
チャイルド・スポンサーシップは、
月々4,500円、1日あたり150円の皆さまからの継続支援です。
貧困、紛争、災害。世界の問題に苦しむ子どもとともに歩み、
子どもたちの未来を取り戻す活動に、
あなたも参加しませんか。
今あなたにできること、
一日あたり150円で子どもたちに希望を。
注1 外務省:諸外国・地域の学校情報
注2 Ministry of Primary and Mass Education:Annual Primary School Census 2018
注3 OECD:Student-teacher ratio and average class size
注4 世界銀行:Bangladesh - World Bank DataBank
注5 日本ユニセフ協会:バングラデシュが抱える課題~教育~
注6 世界経済フォーラム:Global Gender Gap Report 2021
注7 Bangladesh Bureau of Statistics:Education Scenario in Bangladesh: Gender Perspective